【 鈑金インサート装置製作記録のご案内 】

各写真はクリックで大きい画像が見れます

発注元 A社 様
先方のご要望により伏せさせて頂きます
部品製作 中原工作所 様
角井製作所 様
設計
組み立て
当事務所

プラスチック射出成型機において、金型内に成形部品を挿入する機械です。
部品は板金により打ち出された金物で、これを金型内に収め、プラスチック樹脂を周囲に形成します。
この成形方法をインサート成形と呼びます。
ユーザー様では人手により、この板金部品を金型内に挿入する工程をふんでいましたが、省人力化のため、半自動化を当方に依頼されました。
半自動化とは金型内に挿入する手順を機械に任せ、人は部品を機械にセットするだけに留めました。
なぜ、全自動化にしなかったか。
予算の問題と生産期間が非常に短いことが理由です。
生産期間が短いということは設備の専用化が まず出来ません。
また、今後の流れが分からない以上、汎用性も低くならざるをえません。
したがって、今回 予算に当てられたのは 省人力化による予想される人件費が目安となりました。
インサートを行う機械は、かなりシビアな調整を必要とされます。
がしかし、今回 難しかったのは、機械の仕様より 以下の条件でした。

  • 制作期間は2週間(設計含む)
  • 弊社(ユーザー様)で所有する機械部品などはなるべく使用する。
  • 金型交換時の再現性を確保する。
  • 常駐作業オペレーターを2人→1人を確実にする。
  • 生産サイクルを短くする。

当初、あまりにも時間に余裕が無く 難しいと交渉を行いましたが、ユーザー様の所有する他の機械の中で似た動作の装置があり、制御盤とサーボシステムは流用できそうだったので、検討し進める事にしました。

 

今回、主要な部分となり 他の機械からの流用となった部分です。
単軸サーボでボールネジ駆動となっています。
ただ、使用経験のないメーカー製だったため、資料が無く、外形から予想される仕様を元に設計を始めました。
可動部は なるべく分解せず そのままの使用を心がけました。
金型内にチャック(部品を保持する部位)を押し出すシリンダーです。
このシリンダーも金額と納期の関連で流用しました。
このガイドロッドシリンダーは汚れも それなりに有り使用感はありましたが、かじりもブレもなく、十分 再使用可能な状態でした。

流用する部品を取るにあたり、元の機械を解体する作業を行いました。
なるべく流用したいのですが、その為には設計に必要なデータが必要となります。
今ではメーカーのホームページが大抵あるので、シリンダーなどのアクチュエーター、ベアリングなどの機構部品の検索やCADデータなどの収拾に苦労しなくなりましたが、機械の加工部品はどうにもなりません。
また、使えそうな部品でも仕様を調べると不可である事もあります。
したがって、流用する場合、できるだけユニットとして、(サーボなら、固定ベースから可動部あたり)解体 流用と考えました。
もちろん、ユニットとして無理な場合は、アクチュエーターごとに 解体します。
今回、流用したのは次の通り。

  • 制御盤
  • サーボシステム
  • サーボモーター周辺の可動部
  • エアシリンダー
  • エアバルブ
  • エアレギュレーター  などです。

架台など、フレームも流用したかったのですが、各部のレイアウトが自由に出来ないことと、設置時のサイズが現場に合わないことで見送りました。

 

設計は少々、強引に進めさせて頂きました。
絶対的に時間が無いため、ユーザー様とは仕様と構想のみ打ち合わせし、形や動作など全て一任で決めさせていただきました。
打ち合わせ当日に流用する装置の部品を取り外し、持ち帰り解体と清掃を行った後、採寸、状態などを記録。
その日のうちに、大まかな構成と動作、大きさなどを仮設計しました。
まず、流用するユニット(部位)はサーボが中心となりましたので、これに合わせて動作範囲を構成しました。
各部のサイズや配置など細部まで検討したいところですが、とにかく CADに書き込むことで 考えをまとめるようにしました。
今回の注意点は、納期のかかる部品は使用できない事です。
たとえ、設計上で仕様の合致する市販部品があるとしても、在庫のない物は使えません。
ですから、なるべく標準品や 一般的な仕様の物をあらかじめ仮選定し、そのうえでの構成も必要でした。
また、加工部品も少なくしたいので、アクチュエーターには軸受けやレールなど組み込まれ、ある程度の荷重は負担できる物を選定しました。
構成とアクチュエーターが決め、周囲の設計に入りたいところですが、製作の都合上 フレームを先に設計しなければなりません。
今回は とにかく設計の順番もままならず、全て仮設計となったのが苦しいところでした。
水平方向の配置は、さほど苦労しませんでしたが 高さ方向の各部のレベルがまとまらず、フレームの高さを低めに設定し、アジャスターでつじつまを合わせるしかありませんでした。
しかも2分割のフレームとならざるをえなかったので、安易な構造とし、追加工がし易いように配慮しました。

上の写真が加工屋さんから上がったばかりのフレームです。
2つのフレームはL字に配置されます。
左側のフレームに装置本体を組み、右側のフレームにはスライド式のシリンダーを置き、オペレーターからの部品を装置に受け渡す流れを作ります。
制約は他にもありました。
フレーム上面に基準面が作れなかったことです。
予算と時間の都合上、上面を平らに削れなかった事と、塗装が荒いことです。
これは、装置内の各可動部をブロック分けし、それぞれにベース板を設ける事で対処しました。
個別に組み立てと調整が行えるので組み立て時間の短縮にはなったと思います。
しかし、フレームへの固定時に歪みが出る恐れがあり、少々 不安がありましたので 各部の冶具のクリアランスを大きめに取る事にしました。
搬送対象となる部品は 板金で板厚は薄く、位置を固定するところといえば、部品に設けられている いくつかの穴を利用するしかありません。
冶具により固定したところで、吸盤によってチャック(つかむ、持つ)し、金型内へ送るわけですが、この周辺は精度と確実性が必要となります。
ここでは全て、加工精度と組み立て精度に頼るしかありません。
設計では、やはり時間節約のため、板材に面と穴寸法のみで 組み立てを含んだ精度を出せるように工夫しました。
しかし、調整費用を十分に見積もりに組み入れなかったので組み立てに多少リスクが伴います。
特に金型内に進入するチャック部分は、可動部であり、また 機構の支持部から一番遠い所に位置しますので軽く抑えることが必要です。
幸い、搬送物となる板金は軽く、力の加わる個所も少ないと予想されたので、強度的には悩まなくて済みました。

さて、電気設計の方は流用できる制御盤があることから、機械の設計が終わった後から取り掛かりました。
PLCは松下制御が入っており、単純なI/Oユニットのみで構成されていたので、ほとんどそのままで使用できました。
入出力点数も十分でしたので、フレームに取り付ける追加工のみで流用できました。

シーケンスラダーの設計は、まったく新規です。
もっとも、使われているアクチュエーターの数は少ないので、時間は さほどかかりませんでした。

今回の設計作業では、内容的には機械が9割以上をしめ、そのうちの8割は部品図面を描いていました。
仕様設計も構成も同時進行だったので、全ての部品を描き終えないと確定できず、加工部品の先行手配などの手段が取れませんでした。
その為、加工屋さんには無理を強いる結果となり、多大な迷惑をかけてしまいました。
この場を借り お詫びしたいと思います。

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